東京地方裁判所 昭和27年(行)169号 判決 1953年12月28日
原告 万座硫黄株式会社
被告 中央労働委員会
主文
被告が再審査申立人万座硫黄株式会社、再審査被申立人泉川秀信、同堀内英雄、同駒野一男、同中沢久男、同杉山三郎、同山崎勝雄、同山本辰司間の中労委昭和二十七年不再第八号事件につき、昭和二十七年十月十五日付で発した命令主文のうち、「万座硫黄株式会社は中沢久男、山崎勝雄の両名を昭和二十七年四月一日付をもつて精錬部工員に雇入れ、同年四月一日以降職場復帰に至る迄の間同人等が受くべかりし賃金相当額を支給しなければならない。」との部分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、請求の趣旨
主文と同趣旨の判決を求める。
第二、請求の原因及び被告の答弁に対する主張
一、原告は硫黄の採堀、精錬及び販売を業とする株式会社で、群馬県吾妻郡草津町白根山頂に採鉱場を、同町大石原に精錬所を有し、昭和二十四年八月に採鉱を、翌二十五年九月に精錬を開始した。しかしながら採鉱場の白根山頂は、毎年十二月中旬から翌年三月下旬まで多量の積雪におおわれ、かつ酷寒におそわれる為、採鉱作業は不能となり、これに伴つて精錬も休止せざるを得なくなるので、原告は採鉱及び精錬に従事する全鉱員を、作業開始期に採用し、作業不能期に解雇するところの季節雇用を行つてきたのである。
二、昭和二十六年度においても、積雪期が近ずいたので、原告は同年十一月十一日全鉱員一三八名に対し、同年十二月十五日に一斉解雇する旨を予告し、解雇は予告どおり行われ、原告と右全鉱員の間の雇用関係は、同年十二月十五日限り終了した。
三、而して、右鉱員等によつて昭和二十六年九月結成された万座鉱山労働組合(以下単に組合という)から、原告に対して将来他へ就職の都合もあるから、来年度再雇用しない者の氏名は、できるだけ速かに知りたい旨の希望があつたので、原告は例年より早目に、現場職員に回覧をまわし、右職員の無記名投票によつて不採用候補者を選出させ、その後更に不採用候補者に関して、右職員の具体的な意見をきき、公正に選考した結果、昭和二十七年一月二十二日訴外泉川秀信外七名を不採用者と決定し、その旨右八名に通知し、昭和二十七年度には同人等を再雇用しなかつた。
四、ところが、不採用と決定された右八名は、原告がした前記不採用の通知を目して、同人等が組合活動をした故になされた解雇であるとして、昭和二十七年二月五日群馬県地方労働委員会に救済を申立てた。同委員会は右事件につき審査の結果、同年六月十五日付で「一、被申立人会社(原告)は、申立人泉川秀信、同堀内英雄、同駒野一男、同中沢久男、同杉山三郎、同山崎勝雄、同山本辰司に対する昭和二十七年一月二十二日口頭を以て為したる解雇を取消し、昭和二十六年十二月十五日の原職に遅滞なく復帰せしめ、昭和二十六年十二月十六日以降の賃金(労働基準法による平均賃金の六割)を支払わねばならない。二、申立人降旗信一の申立は之を棄却する。三、申立人等のその余の申立は之を却下する。」旨の命令を発した。そこで原告は、右命令を不服として、更に被告委員会に再審査を申立て被告委員会は昭和二十七年不再第八号事件として再審査の結果、「初審命令中主文第一項を左の通り変更する。万座硫黄株式会社(原告)は中沢久男、山崎勝雄の両名を昭和二十七年四月一日付をもつて精錬部鉱員に雇入れ、同年四月一日から職場復帰に至るまでの間同人等が受くべかりし賃金相当額を支給しなければならない。その余の初審申立人の救済申立はこれを棄却する。」との命令を発し右命令は同年十月二十二日原告に交付された。右命令の理由は、別紙命令書写記載のとおりである。
五、しかしながら、右命令中訴外中沢久男、山崎勝雄の両名に関する部分は、労働組合法第七条の解釈を誤り、且つ重大な事実誤認に基いたものであるから取消を免れない。その理由は次のとおりである。
(1) 命令書理由(七)記載の被告主張に対して。
被告委員会は、既往の組合活動を理由として雇入を拒否することは、当然不当労働行為になると判断しているが、そもそも労働組合法第七条第一号「差別待遇」禁止の規定は、後段において「雇用条件」と明記して、前段の「解雇」その他「不利益な取扱」と区別して規定していることからみて、その前段において現に雇用中の労働者に対する使用者の差別待遇を禁止し、その後段において始めて就職希望者の採否に関して「黄犬契約」を禁止したので、前段に定める解雇その他の不利益取扱の禁止は、雇用継続中の労働者についてのみ適用され、後段に定める黄犬契約の禁止は、労働者の雇入の場合及び雇用継続中の労働者について適用されると解すべきである。従つて、新たに採用されるにあたり、組合活動の故に不利益な取扱を受けたとしても、「黄犬契約」の禁止にふれない限り、雇入の自由として使用者に認められた適法な権利の行使であつて、不当労働行為の成立する余地はない。本件では前述のように、原告が昭和二十六年十一月十一日付で解雇予告の意思表示をしたことによつて、原告と鉱員との雇用関係は、同年十二月十五日限り消滅し、原告がかつての鉱員を採用する義務の生ずるような原因は、一切存在しなかつた(右のような義務が生ずる労働協約も労働契約も全然なかつた)のであるから、原告は作業開始期に従業員を募集し、採用するに当つては、かつて鉱員であつた者も、新たに就職を希望してきた者と同様、自由にその採否を決定し得る権利を持つものといわなければならない。従つて本件に関しては不当労働行為の成立する余地がない。よつて原命令は労働組合法第七条の趣旨を不当に拡張適用した違法があるものというべきであり、この点において取消されるべきである。
(2) 仮に原告の右主張がいれられず、原命令の判旨するように、採用に関しても不当労働行為を論ずる余地があるとしても、前記のように原告が訴外中沢久男、山崎勝雄両名の不採用を選考決定するに至つたのは、右両名の組合活動とは全然因果関係がない。
その理由は次のとおりである。
(イ) 被告は右命令において、「再雇用の関係をみると、昭和二十五年度は前年度鉱員十八名中十八名全員を、昭和二十六年度は前年度鉱員七三名中六五名を再雇用してきた。前年度鉱員であつて再雇用されない者は、概ね移住その他の理由によつて自ら再雇用を希望しない者であつて、再雇用を希望するにかかわらず、原告が拒否した明白な事例は認めることが困難である。昭和二十七年度に於ても「再雇用を希望するに拘らず会社が拒否した事例は前記八名を除いて認め難いこと前年度におけると同様である。」と認定した。しかし原告は前年の解雇者を翌年度の事業再開期に当然再採用するのではなく、これらの者も、他の新規に就職を希望してきた者と同様に、原告の作業の進行状況に応じ、毎年就業規則所定の採用基準に照して選考の結果、採用してきているのである。昭和二十五年度は十八名という少人数のことであり、前年度の稼動実績からみて、これを拒否すべき特段の事情もなかつたので、全員採用したが、昭和二十六年度は八名の不採用者中五名は、本人から再採用の申出がなく、他の三名は全体として採用人員を増加したにかかわらず、成績不良のため再採用を拒否した。また昭和二十七年度においても、一段と新規採用者を増加したにもかかわらず、前年度解雇者一三八名中、中沢久男等八名を含めた五十名が不採用となつており、右八名以外にも就職を希望してきたにもかかわらず採用するに至らなかつた者もあるのである。
(ロ) 中沢久男及び山崎勝雄等八名に対する再採用の拒否の予告は、三年間における唯一の事例であることは認めるが、再採用の拒否は前述のように、すでに昭和二十六年度においても行われたところであつて、何ら異例の措置ではない。ただ再採用の拒否を予告したことは、これが始めてであるが、原命令も認定しているように、組合の希望に応じて予告したにすぎないので、原告から積極的に予告したくてしたのではない。再採用の拒否の予告という唯一の事例を作つた原因は、あげて組合側にあつて原告にはない。また組合側の希望を奇貨としてこれに応じたのでもなく、全く希望もだしがたくなしたのである。
(ハ) 被告は、「右八名が組合結成準備委員、執行委員長、副執行委員長、書記長又は代議員を含み、全体としてみると、組合の核心をなすグループであつた」と認定しているけれども、不採用者決定当時組合役員(代議員は組合役員の中に数えない)は十一名であるが前記八名中泉川秀信、堀内英雄、駒野一男、中沢久男の四名が退社当時の組合の役員、杉山三郎がその前の役員であつたにすぎない。数の対比からみても、右八名が「組合の核心をなすグループ」ではなかつたことが明かである。
(ニ) 原告と組合との関係が多少円滑でなかつたこと及び原告が組合と団体交渉をしたことは認めるが、組合がかつぱつに活動したこと、原告が組合に対して御用組合的なものを希求したり原告会社側職員が組合に干渉したがり、かつぱつな組合活動を原告が嫌つていたことは争う。
中沢久男が組合の執行委員であつたことは認めるが同人の組合活動がかつぱつであつたことは争う。
山崎勝雄は原告と組合の団体交渉に出席したこともなく、又原告は組合結成以来、執行委員以上の役職以外については、組合から何らの通知をうけず、同人が代議員であつたことは知るに由なく、ましてや同人が組合内部でいかなる活動を行つたかも全然あずかり知らない。従つて原告が山崎を、その組合活動の故に不採用とする余地はない。
このように中沢、山崎の両名を再採用しなかつたのは、両名の組合活動の故ではなく、従つて不当労働行為の成立する余地のないことは明かである。
(3) 原告が右両名を不採用にしたのは次のような事由があつたからである。
(イ) 中沢久男について。昭和二十六年十月十五日頃、精錬所において新増産計画を実施し、従業員一同その達成に努力したが、中沢は生産意慾がなく、組長として増産計画に対して非協力な態度をとり中沢を組長とする中沢組は山本を組長とする山本組にくらべて相対的に生産量が低く、同人は組長の地位にありながら、汽罐夫に投炭量を少くして蒸気の出を低下するようそそのかして、右増産計画の阻害を企て、なお山本組に対して仕事をしないことを同調するよう働きかけた。
(ロ) 山崎勝雄について。同人は昭和二十六年十一月二日夜勤中雨が降つたが、仕事はできないことはないにかかわらず、無断帰宅し、その際年少の同僚山本武吉をもそそのかし無断帰宅させたこともあつた。同人の勤務成績は精錬夫四十六名中最下位であつた。
このように、右両名に対する再採用拒否事由たる事実があるにかかわらず、被告委員会は右事実を認定せずかえつて不当労働行為の事実を認定したのであつて、右は重大な事実誤認というべく、原命令はその誤認事実を前提にして法を適用した違法があるから取消されるべきである。
第三、被告の答弁
一、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。
二、原告主張の請求原因第一乃至第四項に記載された事実中、原告が前記八名を不採用者と決定するに当つて、公正に選考したとの事実は否認する。その余の事実は全部認める。
三、請求原因第五項に対して、本件命令及びその前提となる事実の認定及び法律上の判断については、原告の主張するような違法の点はなく、この点についての被告の主張は、次に述べるほかは命令書の「理由」記載のとおりである。
四、労組法第七条第一号前段は、「労働者が………労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者……に対して不利益な取扱をすること」を禁止しているのであつて、不採用を右の不利益取扱から除外する旨の明文の規定がないことは勿論、同法第七条第二号のように「雇用する労働者」と規定していないので、第一号前段を雇用継続中に限るという解釈は、単に文理のみからいつても極めて困難である。右第七条第一号が前段と後段とを設けるゆえんは、前段が雇用継続中、後段が雇人の際という時間的に異なる場合を区分したのではなく、禁止しようとする使用者の行為の態様、性質が異なるにある。すなわち、黄犬契約自体は必ずしも直ちに前段にいう不利益取扱でない。何となれば、黄犬契約はそれが発動され履行されることによつて或は解雇、或はその他の不利益取扱の場合が生ずるが、この発生した不利益取扱は当然第一号前段に該当するから、不利益取扱禁止の観点からはあえて第一号後段の規定を要しない。特に第一号後段の規定が設けられたゆえんは、必ずしも未だ不利益取扱とは称しえない黄犬契約の締結そのものを禁止するにあり労働運動の歴史に徴してかかる契約が、組合活動を圧迫阻害すること大なるにかんがみ、必要と認めて設けられたものなのである。従つて第七条第一号は前段において不利益取扱を、後段において黄犬契約を禁ずるのであつて、法文そのままに解釈すべきであり、前段も後段も何れも、雇用期間中であると雇入の際であるとを問わないのである。要するに労組法第七条は労組法第一条にかかげる法の目的に従つて解釈すべきものである。「組合活動を理由とする不採用は不当労働行為とはならない」という如き考が労組法の精神にもとることは原命令に記載したとおりである。もしそうでないとせば、法は既往の組合活動をもつて、永久に不採用の理由とすることを是認することになるのであつて、かつてかつぱつな組合活動を行つた者が、求職することを著しく困難とし、組合活動に与える脅威は極めて重大である。また原告の考えによれば、特定の労働者を、組合活動の故に解雇しようとすれば、まず全員をひとしく解雇し、次いで右労働者以外の全員を改めて雇入れれば、「合法的」となるのであつて、全く労組法の精神をじゆうりんする脱法行為を公認するものといわなければならない。
五、中沢、山崎両名は、かつぱつに組合活動をしていたが、原告はこれを嫌い、組合の御用組合化を希望し、鉱員の採用に当つては、性格の穏健を第一条件とし、会社側に立つ職員は組合に干渉したがつていた。原告が再雇用の拒否を通告した八名中、組合三役をはじめ執行委員を歴任した者五名を数え、代議員であつた者二名を含んでいる。退社当時の組合三役または執行委員であつた者四名、代議員一名である。原告は執行部十一名中再雇用を拒否した者はわずか四名であると主張するが、同じ執行委員であつても不採用者以外には概してみるべき組合活動がない。すなわち、団体交渉及びこれに準ずるものは前後五回行われているが、これに四回以上出席している者は再採用を拒否された泉川、堀内、杉山、中沢四名のほか後藤を加えた五名であつて、他は丸山が三回の外すべて一回である。後藤は事故により一斉解雇前に依願退職しているから、再採用の問題はなく、結局組合執行部中最もかつぱつに団体交渉に当つた四名はことごとく再採用を拒否され、これによつて組合執行部はかい滅したのであるから、不採用とならなかつた残り六名とは質において問題にならぬというべきである。従つて執行部の者でも再採用されているからといつて本件不採用決定と組合活動との因果関係を否定する根拠とはならない。山崎は代議員に過ぎなかつたが、組合結成にあたり準備委員に選出されており、この点よりするもその組合活動がかつぱつであつたことを推認するに足りる。
第四、証拠<省略>
理由
一、原告は硫黄の採掘、精錬及び販売を業とする株式会社で、群馬県吾妻郡草津町白根山頂に採鉱場を、同町大石原に精錬所を有し、昭和二十四年八月に採鉱を、翌二十五年九月に精錬を開始した。
しかしながら採鉱場の白根山頂は、毎年十二月中旬から翌年三月下旬まで多量の積雪におおわれ、かつ酷寒におそわれるため、採鉱作業は不能となり、これに伴つて精錬も休止せざるを得なくなるので、原告は採鉱及び精錬に従事する全鉱員を、作業開始期に採用し、作業不能期に解雇するところの季節雇用を行つてきた。
昭和二十六年度においても積雪期が近ずいたので、原告は同年十一月十一日全鉱員一三八名に対して、同年十二月十五日に一斉解雇する旨を予告し、解雇は予告どおり行われ、原告と右全鉱員の間の雇用関係は同年十二月十五日限り消滅した。而して組合から原告に対して、将来他への就職の都合もあるから、来年度再雇用しない者の氏名は、できるだけ速やかに知りたい旨の希望があつたので、原告は例年より早目に選考の結果、昭和二十七年一月二十二日訴外泉川秀信外七名を不採用者と決定し、その旨右八名に通知し、昭和二十七年度には同人等を再採用しなかつた。そこで右八名は右不採用の通知を目して不当労働行為であるとして、昭和二十七年二月五日群馬県地方労働委員会に救済を申立て、審査の結果前記不採用の通知は降旗を除く七名につき不当労働行為であるとして原告主張のような命令が発せられた。
原告は右命令を不服として、更に被告労働委員会に再審査の申立をなし、再審査の結果別紙命令書写記載のような理由で、右七名のうち中沢久男、山崎勝雄以外の五名の救済命令は棄却されたが、中沢久男、山崎勝雄両名の不採用は不当労働行為であるとし、原告主張のような救済命令が発せられた。
以上の事実は当事者間に争がない。
二、そこで本件のいわゆる季節雇用について、再採用の拒否が不当労働行為となりうるかどうかを考えよう。
原告は本件再採用の拒否は、雇入の拒否と異なるところはなく、しかも雇入の拒否に関しては、労組法第七条第一号前段の適用される余地がないから、本件においても不当労働行為の成立する余地がないと主張するので、此の点につき検討する。
わが労組法は、アメリカのワグナー法やタフト・ハートレー法のように、雇入に関する不当労働行為を認めていると解せられるような明文がないので、労組法第七条第一項前段の「不利益取扱」というなかには、雇入についての不利益取扱を含むかどうか疑問がないではない。右前段には「労働者を解雇し、その他これに対して不利益取扱をすることができない」と規定しているところをみると、前段は雇用関係ある労働者を前提として規定したようにも解せられないこともない。しかし「その他これに対して不利益な取扱をすること」の「これ」は、その前の「その労働者」を受け、「その労働者」とは、前の「労働組合の正当な行為」その他同項前段所定の行為をした労働者を指すものと解すべく、従つて労働組合の正当な行為をした労働者に対しては、それが解雇であろうが不採用であろうが、いやしくも組合活動の故に不利益な取扱をすることを労組法は禁じているものとも解される。問題はむしろ労働者の団結権の保護と経営者の雇入の自由との調和点をどこに求めて解釈するのが妥当かの点にある。もし組合活動の故に雇入を拒否することができるとすれば、もつともこの場合でも多くの場合は、解雇自体を争えばよく、不採用を争う必要もなかろうが、組合活動をした労働者は完全に企業から閉め出されることになる恐が絶無とはいえない。しかし他方経営者は労働者を雇入れるに当つて、だれを雇入れるかは自由な選択に委せられておるのであつて、この点は家の明渡は正当な理由がなければ請求ができないとしても、だれにその家を貸すかは貸主の自由に委せられているのと似た点がある。またわが労働組合の実体が、アメリカのようにその産業における労働力の独占者として広く関係の個々の企業主と交渉をもつ、いわゆる「クラフト・ユニオン」と異つており、従つてわが国の労働力需給の実体は、アメリカと著るしく異るところから、直ちにアメリカにおけると同一に解釈することもできない。それ故甲会社でかつて正当な組合活動をしたことを理由として、一般的に乙会社で雇入を拒否することができるといえるかどうかは、わが労組法の解釈としては議論の余地もあろう。しかしかつて自己の企業の労働者であつた者を再採用する場合には、これと同一に論ずることはできない。本来自ら雇つている者を正当な組合活動の故に解雇できないのであるならば、かつて自ら雇つていた者を正当な組合活動の故に再採用しないことも許されないと解するのが、不当労働行為の規定を設けた精神からいつても妥当であるばかりでなく、こう解したからといつて、経営者に過当な重荷を負わしたことにもならない。本来は組合活動の故に解雇することのできなかつた労働者を解雇しないままの状態に返すだけのことであるからである。しかしこの場合でも、多くの場合は、解雇自体を争えば足り、不採用を争う必要はないであろうが、それだからといつて、理論上不採用につき不当労働行為が成立することを否定することはできない。もつとも労働者を雇入れるに当つては、前に解雇した労働者のほかに、新な希望者をも加えて、だれを雇入れるかは経営者の自由で、雇入について一定の基準を必要とする訳でないから、果してかつての正当な組合活動の故に雇入れなかつたものであるとの認定が事実上困難なことが多いであろう。しかしそれは事実認定の問題であり、正当な組合活動の故に雇入れなかつたならば、理論上不当労働行為の成立を妨げるものでないと解すべきである。まして次にのべるように従来本人が希望すれば再採用されるのが普通であつたような本件の場合には、不採用につき不当労働行為の成立することはなおさらのことである。
すなわち原告会社における鉱員の再雇用の関係をみるに、昭和二十五年度は前年度鉱員十八名全員を、昭和二十六年度は前年度鉱員七三名中六五名を、昭和二十七年度は前年度鉱員一三八名中八八名を再雇用したことは当事者間に争がなく、証人松尾源市の証言によれば、昭和二十六年度の不採用者八名中、五名は行方不明等の理由で応募せず、三名は採用を希望したが、「人がいつぱい」という理由でことわつたけれども、原告の真意は右希望者の作業成績、勤務状態が悪いためであり、昭和二十七年度の不採用者五〇名中、本件八名を除いた四二名については、十四、五名は非組合員であつたので組合へは通知せず、更にその残りのうち二名は雇用中会社の銅線を盗んで依願退職扱にしたものであり、他は行方不明その他で応募しなかつた者であることが認められる。
このように、作業不能期に解雇された従業員は、翌年度作業開始期において就職を希望すれば、特段の事情のない限り、再採用されていたのであるから、作業不能期に解雇された従業員は、翌年度の作業開始期における再採用につき、それを期待する利益を有していると考えられる。すなわち本件で解雇といい再採用というも、純然たる解雇または再採用ではなく、冬期仕事ができないので、一時仕事を休むためこのような雇用方式をとつたものの、実際はその間継続的な関連があるのであつて、再採用の拒否というも実質は解雇的色彩をも含んでいるからである。
三、そこで進んで中沢、山崎両名に対する再採用の拒否が不当労働行為であるかどうかを判断しよう。
組合が昭和二十六年九月に結成され、原告と組合との関係が多少円滑でなかつたことは、原告の認めるところであり、証人原口直也、大島健吉の各証言及び成立に争のない乙第一号証の一中「万座硫黄提訴について」末尾組合歴によれば、組合結成の際、本件不採用通知をうけた八名中、泉川秀信が執行委員長、杉山三郎が副執行委員長、中沢久男が執行委員、堀内英雄が書記長、駒野一男、山崎勝雄、山本辰司がそれぞれ代議員に選任され、同年十二月作業不能期に全員解雇されるまで、組合執行部は数回団体交渉をなし、組合員の賃金値上、作業不能期間における身分安定、労働協約の締結のための交渉を行つたことが認められ、本件再採用拒否の予告は、組合の原告に対する希望によりなされたものであるが、不採用通知をうけた八名中泉川秀信、堀内英雄、駒野一男、中沢久男の四名が、退職当時の組合役員であつたことは原告の認めるところであるから、右八名に対する再採用の拒否は、正当な組合活動を理由とする不当労働行為であることを疑わしめる点がないではない。しかしながら、右八名のうち降旗については群馬地労委が不当労働行為を否定し、残り七名のうち本訴で争われている中沢、山崎両名を除く五名については、被告委員会自ら再審査の結果、それぞれ再採用を拒否する特段の事由があり組合活動の故でないとしたのである。五名について自ら不当労働行為を否定しながら、このように多数組合役員又は代議員の不採用は不当労働行為であると主張するのは、主張自体矛盾する。しかも証拠によるもこの五名が組合活動の故に再採用されなかつたと認めることができないことは、被告委員会認定のとおりであるから、組合役員又は代議員であつた者が、このように多数不採用の予告をうけたからといつて、のこる中沢、山崎両名の不採用がその組合活動の故であると断定することはできないことはいうまでもない。もつぱら中沢、山崎個人について、果して組合活動の故に再採用をしなかつたものかどうかについて、検討しなければならない。
(1) 中沢久男について、
中沢が組合の執行委員であつて、原告と組合との団体交渉に出席していたことは、原告の認めるところであるが、原告が中沢の組合活動に注目し、中沢の組合活動が本件再採用拒否の原因となつたことをうかがわせるに足る証拠はないばかりでなく、証人金月弘、藤田幸雄、上村勝美、熊川新太郎、滝沢岩松の各証言及び証人藤田幸雄の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の一乃至三によれば、次のような事実が認められる。
昭和二十六年九月頃原告会社では増産の計画をたて、精錬係職員の藤田、佐々木の作成した増産計画原案をもとにして、担当課長と係員四名及び鉱員代表として山本、中沢各組長、上村機関組長等が出席して工程合議を開いたが、特に反対もなかつたので、一週間の試験期間後同年十月一日から十一月一ぱい右増産計画を実施した。ところが右増産計画を実施中、中沢を組長とする中沢組は、山本を組長とする山本組とくらべて相対的に生産量が低かつた。もつとも山本組は担当の生産量を多くし、または多く見せかけるため、いわゆるこりこうに立廻つた点が認められるので(滝沢岩松の証言)、中沢組と山本組との生産量の実際上の差が、甲第五号証の一乃至三、または藤田幸雄の証言のとおりであるとは直ちにはいえないが、少くとも中沢組の生産量は山本組にくらべて、相対的に低く、また中沢は組長として増産計画に対し協力的態度に欠けるところがあつたことは争えない。山本組長は中沢から増産計画どおりに仕事をしないことに同調するように働きかけられたので、藤田係員に適当な処置をしてくれるように頼んだこともある。また中沢組の機関夫須田は、山本組の機関夫上村に対して、工程会議にはいる当日ダンバーをさげて、空気の流入を悪くすることによつて、石炭の燃焼率をさげ、蒸気の出を悪くし、蒸気の出が少いから計画どおりの増産ができないことを主張して、増産計画を阻止するよう話をもつていくことを働きかけたので、須田はその旨藤田係員に報告したことがある。かように認められ、証人中沢久男、須田正雄の各証言中右認定に反する部分は信用しがたい。
原告は中沢が汽罐夫に投炭量を低下するようにそそのかし、増産計画の阻害を企てたと主張するが、中沢がそそのかしたとの事実は、証人金月弘、熊川新太郎、藤田幸雄、上村勝美の各証言及び成立に争のない乙第一号証の三及び第二号証の二各審問調書(証人藤田幸雄供述部分)中に同趣旨の証言があり、その事実のあつたことを疑わせるものがないではないが、いずれも伝聞であつて、この証拠から中沢がそそのかしたものと断定することはやや困難で、他に右事実を認めるに足る証拠はない。しかし前記証人金月弘、熊川新太郎、藤田幸雄の各証言を綜合すると、藤田係員は山本から中沢が汽罐夫の投炭量を低下させるようそそのかして増産計画の阻害を企てているとの申告をうけたので、同係員は山崎課長、熊川係員同席の下に、中沢、須田をよんで注意を与えたところ、両名からはつきりした返答がなかつたので、右職員等は右のような事実があつたと信ずるに至つたことが認められる。
そして中沢、山崎らを不採用に決定するに当つては、現場職員に回覧をまわし、現場職員の無記名投票によつて不採用候補者を選出させ、その後さらに右不採用候補者に関して現場職員の具体的意見を聞いて決定したことは当事者間に争なく、証人金月弘の証言によれば、中沢を不採用に決定するに当つては、原告会社の鉱業所次長である同証人が藤田その他の現場職員から以上のべたような事実を聞かされ、これを信じて、中沢を不採用に決定した事実を認めることができる。また藤田その他の現場職員が中沢の組合活動の故にそのような報告をしたとも認めるべき証拠がない。
よつて中沢の不採用の原因が同人の組合活動の「故」であることを認めることができないので、中沢に対する不当労働行為の成立を認めることはできない。
(2) 山崎勝雄について、
証人大島健吉、山崎勝雄の各証言によれば、山崎は組合結成前、泉川、杉山、堀内等と共にひそかに組合結成の裏面工作をなし、結成後は代議員に選出されたが代議員は組合員十人に一人の割合で選出されたもので、十一名の数に上り、団体交渉は執行委員が当り、代議員は団体交渉に出席せず、従つて山崎は団体交渉にも出席したことのないことが認められ、また証人金月弘、松尾源市、熊川新太郎の証言によれば、代議員は組合役員でなく、組合役員(正副執行委員長、執行委員、書記長)の氏名は会社に通告せられるが、代議員の氏名は通告を受けず、従つて原告会社においては、山崎が代議員であつたこと、その他山崎の組合活動につき知るところがなかつたことが認められる。そればかりでなく、証人金月弘、熊川新太郎、佐々木東助の各証言及び成立に争のない乙第一号証の三中第二回審問調書(証人佐々木東助供述部分)を綜合すれば、山崎は精錬夫として運鉱、仕込に従事していたが、昭和二十六年十一月二日夜勤の際、雨が降つて来たので係員に無断で帰宅したが当夜は仕事ができないような雨ではなく、みのを着れば、作業は十分できたのであり、なお山崎は平素から勤労意慾に欠けるところがあり、早くから採用されている者の割合に作業成績がよくないことが認められる。同人は証人として、当夜は腹痛のため早退したので、係員が居なかつたため中沢に断つて帰つたと供述するが、右供述並びにこの点についての証人山本武吉の証言は信用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。証人金月弘の証言によれば、同人を不採用に決定するに当つては、鉱業所次長であつた同証人が、前にのべたように現場職員の意見を徴した結果、現場職員から右のような事実をあげ不採用にすべしとの意見を聞かされたため、原告会社において、不採用に決定したことが認められる。
よつて山崎に対しても、中沢に対すると同様、原告が山崎の組合活動の「故に」再採用しなかつたものと認めることができないから、不当労働行為は成立しないものといわなければならない。
四、以上に述べたように、中沢、山崎両名に対してなした原告の再採用の拒否は、両名の組合活動を理由としたものとは認められないから、原命令中、中沢、山崎両名に関してなした救済命令は、違法な行政処分として取消を免れない。
よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。
(裁判官 千種達夫 立岡安正 高橋正憲)
(別紙)
命令書
再審査申立人 万座硫黄株式会社
再審査被申立人 泉川秀信 外六名
右当事者間の中労委昭和二十七年不再第八号事件について、当委員会は、昭和二十七年十月十五日第一三九回公益委員会議に於て、会長公益委員中山伊知郎、公益委員細川潤一郎、同佐々木良一、同中島徹三、同吾妻光俊出席合議の上左の通り命令する。
主文
初審命令中主文第一項を左の通り変更する。
万座硫黄株式会社は中沢久男、山崎勝雄の両名を昭和二十七年四月一日付をもつて精錬部鉱員に雇入れ、同年四月一日以降職場復帰に至る迄の間同人等が受くべかりし賃金相当額を支給しなければならない。
その余の初審申立人の救済申立はこれを棄却する。
理由
審問の結果認定した事実、およびこれに対する判断は次の通りである。
(一)、(万座硫黄株式会社における雇用関係)
再審査申立人万座硫黄株式会社(以下会社と称する)は硫黄の採掘、精錬及び販売を業とし、群馬県吾妻郡草津町白根山頂(標高約二千米)に採鉱場を、同町大石原に精錬場を有し、昭和二十四年八月に採鉱を、翌二十五年九月に精錬を開始した。しかしながら採鉱場たる白根山頂は毎年十二月中旬以降翌年三月下旬迄多量の積雪に覆われ、かつ酷寒に襲われる為、採鉱作業は不能となり、これに伴つて精錬も休止せざるを得なくなる。そこで会社は毎年積雪期に入ると一部事務関係職員を除いて、採鉱及び精錬に従事する鉱員全員を一斉に解雇し翌春作業が可能となるに及び作業の進捗度に応じて前年の鉱員を再雇用すると共に新たに別に鉱員を雇用していた。
この再雇用の関係を見ると昭和二十五年度は前年度鉱員十八名中十八名全員を、昭和二十六年度は前年度鉱員七三名中六五名を再雇用してきた。前年度鉱員であつて再雇用されない者は、概ね移住その他の理由によつて自ら再雇用を希望しない者であつて、再雇用を希望するに拘らず会社が拒否した明白な事例はこれを認めることが困難である。
(二)、(万座鉱山労働組合とその活動)
昭和二十六年八月鉱員間に再審査被申立人(以下被申立人と称する)堀内英雄同中沢久男等を中心として組合結成の気運が昂まり、同年九月万座鉱山労働組合(以下組合と称する)が結成され、再審査被申立人泉川秀信は執行委員長に、同堀内英雄は書記長後に副執行委員長に、同駒野一男は代議員後に書記長に、同中沢久男は執行委員厚生部長に、同杉山三郎は副執行委員長(後に辞任)、同山崎勝雄及び同山本辰司は代議員(後に辞任)に夫々選任された。組合は組合員の待遇改善及び積雪休山期に於ける身分の安定を主たる目的として労働協約を締結する為屡々団体交渉を行う等活溌に活動したのであるが、妥結を見るに至らないまま会社は、積雪期が近ずいて来たので同年十一月十一日全鉱員一三八名に対し十二月十五日をもつて一斉解雇する旨を予告し、解雇は予告通りに行われた。
(三)、(再審査被申立人等に対する不採用の予告及び再雇用の拒否)
休山中の身分保障又は再開後の再雇用の保障について、組合は所期の目的に達することができなかつたが、少くも来年度再雇用しない者の氏名は可及的速かに知りたいと希望していたので会社は昭和二十七年一月二十二日再審査被申立人等七名を含む八名(他の一名は初審申立人降旗信一)に対し不採用の予告を行つた。
その後会社は、春を迎えて作業を開始するに及び、三月下旬以降遂次再雇用ならびに新規採用を開始し、再雇用者は八八名に及んだが、本件被申立人等は再雇用せられなかつた。しかして爾余の再雇用されない者は、自ら再雇用を希望しない者であつて、再雇用を希望するに拘らず会社が拒否した事例は前記八名を除いて認め難いこと前年度に於けると同様である。
以上の事実に基いて判断すると
(四)、(昭和二十六年十二月の一斉解雇について)
昭和二十六年十二月十五日に行われた解雇は、例年通り積雪期の操業中止に因るものであつて組合活動と無関係であること、解雇は全鉱員一斉であつてその間に差別なく、組合活動を理由とする不利益取扱を論ずる余地の存しないことは明白である。
(五)、(再審査被申立人等七名に対する不採用の予告全般について)
しかしながら再審査被申立人等七名を含む八名に対する再採用の拒否の予告は、一三八名中八名のみに対して行われたというだけでなく、三年間に於ける唯一の事例である。そこで前記八名が組合結成準備委員、執行委員長、副執行委員長、書記長、又は代議員を含み全体として見ると組合の核心をなすグループであつたこと、組合と会社との関係は会社も認めるように決して円滑ではなく、団体交渉議事録等の書証によつてみても、会社は組合の存在及び組合の活動に対して快からず思つていたことは明らかであり、これ等を綜合すれば会社が右グループに対して不採用を予告し、かつこれに基き再雇用を拒否するという異例の措置は、会社が被申立人等の組合活動に対する敵意に出たものと認めざるを得ない。
(六)、(再審査被申立人各人の不採用事由の存否について)
従つて右被申立人等各個に再雇用拒否を相当とするだけの特段の事由が存しない限り、被申立人等に対する不採用の予告ないし再雇用の拒否は、全体として被申立人等の組合活動を理由とする不利益取扱であると判断されるのであるから、次に各被申立人のそれぞれについてそのような特段の再雇用拒否事由が存するか否かについて判断する。
(1)、再審査被申立人泉川秀信同堀内英雄同杉山三郎は会社の主張する如く、昭和二十六年度に於て夫々合計十七日、二十六日、三十八日の無断欠勤の事実があり、この日数は他に比して群を抜いて多いことが認められる。もつとも就業規則には欠勤の届出制に関する規定はないが、元来欠勤については届出をすることは当然であるのみならず、松山、中谷各証人及び乙第十二号証によれば会社には事実上欠勤届出制が実施されていたと認められるのであるから、以上三人の者がその無届欠勤の多いことの故をもつて勤務成績不良として再雇用を拒否されてもやむを得ないところで、不採用にすべき特段の事由があつたと云わなければならぬ。
(2)、駒野一男は昭和二十六年十月十八日頃原動手として索道の運転に従事中電流計の監視を怠り、支柱に搬器の引掛つたことを発見し得なかつた為第三十四号支柱を倒壊させて作業に重大な支障を与えた。かかる事故を防止する為には電流計の監視のみでは不充分であり、電流計は風等の自然現象によつても変動することはあり得るとしても、前記の如き事故は少くとも電流計の監視を怠りさえしなければ未然に防止し得る性質のものと考えられるのであつて、その点について同人の怠慢が責められてもやむを得ず、不採用にすべき特段の事由として充分認められるところである。
(3)、山本辰司は昭和二十六年十二月会社に発生した資材持出し事件について組合代表者から容疑者として会社に通知されたこと(乙第十一号証及び中谷証人の証言)、これによつて会社が同人を資材持出し容疑者と考えたことが不採用にした決定的事由であると認められ、これ又不採用にすべき特段の事由があつたと云わねばならぬ。
(4)、中沢久男について、会社は昭和二十六年十月十五日新増産計画実施中組長の地位にありながら汽罐夫等に投炭量を低下するよう唆かして右生産計画の阻害を企てたと云うが、会社の主張は主観的抽象的にすぎ、措信するに足りない。
(5)、山崎勝雄について、会社は昭和二十六年十一月二日夜勤中無断帰宅し、その際年少の同僚をも唆かし無断帰宅させたと云うが、当時会社の業務規律は余り厳正ではなく、就業時間中職場を離脱し、町に飲酒に行く等のことはあり勝ちであり職場秩序の乱れていた事実(松山、安斎各証人の証言)が認められるのであつて、ひとり山崎のみがこれだけのことで重い責を負うべきものとは考えられない。又会社は同人の勤務成績が精錬夫四十六名中最下位であると云うが、右の職場離脱の点を除いては具体的主張も立証もないことから云えば、かえつて本件不採用は同人が精錬夫職場を代表する組合代議員であつたためであると推定せしめるに充分である。
以上の通り再審査被申立人泉川秀信、同堀内英雄、同駒野一男、同杉山三郎、同山本辰司には夫々再雇用の拒否について相当な理由が存するが、再審査被申立人中沢久男、同山崎勝雄の二名については特に他の者と異つて再雇用を拒否すべき特段の事由を見出し得ないのであるから、右二名に対する本件再雇用の拒否は同人等の前記組合活動の故になされた不利益取扱と認めざるを得ない。
(七)、(会社の抗弁について)
会社は「労組法第七条第一号は米国のワグナー法第八条又はこれと同趣旨のタフトハートレー法の規定とは明らかに異る規定をしているのであつて我国法の下に於ては、現に雇用関係の継続している労働者に対する使用者の差別待遇を禁止しているに止まり、新たに就職を希望する者の採否については黄犬契約の場合のみ不当労働行為の成立を認めているにすぎない」と主張する。然し組合活動を理由に雇入を拒否することは黄犬契約と性質上何ら異なるところがないのみならず、黄犬契約に於ては組合から脱退すれば雇入れられるのであるから抑圧される組合活動は将来のものに限られるのに対し、組合活動を理由とする雇入の拒否は既往の組合活動を問題とする点に於て、その実害は黄犬契約よりもはるかに著しい。従つて法が黄犬契約を禁止している以上、既往の組合活動を理由として雇入を拒否することは当然不当労働行為になるといわなければならない。なお米国法に於ても必ずしも明文上特に既往の組合活動を理由とする雇入の拒否についての規定はないのであつて、この点に関し争があつたが、後に最高裁判所の判決によつて不当労働行為の成立が認められたのであり、米国法との比較に於て不当労働行為の不成立を主張するのは当を得ない。
殊に本件の如く従来の実状よりすれば異例とみられる再雇用の拒否にあつては、寧ろそれは実質的に組合活動を理由とする解雇と性質を同じくするものとも云いうるのであるからこの点からも会社の主張は採用し難い。
(八)、(初審命令及び本件救済命令の内容、法律の適用について)
初審命令は昭和二十六年十二月十五日の一斉解雇を不当労働行為の着手であると判断しているがその誤りであることは前述(四)の通りであり、この判断を前提として救済命令の部分は取消を免れない。
而して再審査被申立人等中、泉川秀信、堀内英雄、杉山三郎、駒野一男、山本辰司の五名に対する不採用の予告及び再雇用の拒否は何れも前述の如き理由により、救済を命ずる限りではなくこの部分に関する初審命令は取消を免れない。これに対し再審査被申立人中沢久男、同山崎勝雄に対する不採用の予告及び再雇用の拒否は不当労働行為を構成するから、この二名に関する初審命令は相当である。
しかし会社は十二月十六日以降春の開山期迄の間は休山していたのであつて、たとえ右両名をその間に於て救済し雇用せよと云つても就かしむべき職場はなかつたのであるから昭和二十六年十二月十六日以降の原職復帰、給与の遡及払を命じた点は誤りである。不利益取扱の場合における救済命令は不利益取扱なき状態に復さしめることを本旨とするから、本件の場合前記二名に対する救済は右二名と全職種の他の者と同等の取扱を命ずれば足りる。而し職権によつて調査したところによれば再審査被申立人中沢久男同山崎勝雄の職場であつた精錬部門の前年度鉱員は昭和二十七年四月に再雇用されていること明らかであるので右二名に対する救済は、昭和二十七年四月一日に遡ることを妥当とする。
以上の通り本件再審査申立には理由があり、初審命令は変更を免れないので労組法第二十五条同第二十七条中労委規則第五十五条によつて主文の通り命令する。
昭和二十七年十月十五日
中央労働委員会会長
中山伊知郎